DATE 2008. 9. 2 NO .
「――よぉ、そんなとこで何してんだ?」
「…エッジか」
振り返ると、片手を挙げてにっと笑うエッジの姿があった。
「名前を考えていたんだ。子供の頃、よくここから月を眺めていたんだけど、ついこないだの事のような気がするのに、もう僕も親になったんだなーって思うよ」
「…ったく、年上の俺を差し置いてよ」
本来なら祝いの使者が来るものなのだろうけど、エッジ、ヤン、ギルバートの三人は、自らバロンにやって来て僕達を祝福してくれた。
もう休んだかと思っていたのに、エッジは相変わらずというか、なんというか。
「なら早くリディアにプロポーズすればいいのに」
僕がそう言うと、エッジは面白いくらいにわかりやすい反応をする。
「――っ!! おまっ、何でそこでリディアが……!」
「呼んだーー?」
「わーーーーっ!!」
屋上にいる僕とエッジが見えたのか、下からリディアの声が聞こえてきた。
リディアも、相変わらずだ。
まぁ、こんなやり取りが二人らしい…かな。
「二人とも何してるの?」
「僕は子供の名前を考えていたんだ」
「エッジは?」
「セシルを見かけたから、声をかけただけだ!」
「…どしたの、エッジ?」
エブラーナ再建を果たしたら即位するのだと、エッジは言っていたけど。
(戴冠式の次にエブラーナに呼んでもらえるのは、一体いつになる事やら……)
「――セシル。名前、決まりそう?」
「あぁ。……月を眺めていたら、思いつきそうだよ」
「月を見ていたら?」
「そう。ひとつになってしまったけど、子供の頃からよく見ていたから何となく、ね」
「懐かしんでたのかもしれないね」
「…かもしれないな」
あ、そういえば。
「月といえばリディア、あの賭けは結局どうなったの?」
「セ、セシルっ!!」
やっぱり。エッジがさっきのような勢いで焦りだした。
「月にウサギがいるなんて御伽噺だーって、エッジ、言ってたっけ」
「あー、思い出したー! 結局あの後ごたごた続きで、すっかり忘れてたんだ!」
エッジががっくりと肩を落とす。
「ハミングウェイはウサギじゃねーだろ……」
「お話になったっておかしくないくらいウサギに似てたよ!」
「リディアの勝ち、だな。潔く負けを認めなよ、エッジ」
「セシル…てめー……」
「せっかくだから、何かしてもらいなよ、リディア。例えば……王様自ら案内して下さるエブラーナ観光、とかさ」
「わぁ…いい考えだね、それ。エブラーナに負けないように、私もミストの復興、頑張らなきゃ!」
「そ、そんなでいいのか…?」
「すごく楽しみだよ! 待ってるから、エッジも頑張ってね」
「言われなくても……当然だ」
(全く、本当にじれったいな、あの二人は)
再び一人になって、また月を見上げる。
片割れを失ってもなお、明るい。
この光は、どこまで届いているんだろう。
(本当は、男の子だってわかった時から決めてあるんだよ)
ローザには、きっとばれている。
今日も変わらぬ、月夜だ。
片割れまで届けとばかりに、蒼く、輝く。
≪あとがき≫
web拍手御礼SS第4弾。秋担当、ら し い よ … !
ここに格納しようとして初めて気づきました。どうやら白魔法辺りで性別判断をなさったようです;